私は歯科衛生士養成校で英語を教えています。ご縁あって教壇に立たせていただくようになってから13年。いちばん苦労した…というか今でも苦労しているのは“教材選び”です。
歯学部生向けはそこそこ選択肢がありますが、歯科衛生士養成校の学生が使うには、2つの大きな課題をクリアする必要があります。
2つの課題
- 語いレベル
- 内容(歯科医師と歯科衛生士とでは業務内容や患者と接する場面が異なる)
この2つの課題をクリアしようとする過程で、歯科衛生士養成校専用教材の必要性を痛感しました。しかし、市場はかなりニッチで、汎用フレーズをまとめた一般書籍しかほとんどありませんでした。
現場での課題
勉強の仕方がわからない学生が多い
例えば1週間後にテストがある場合、すぐに行動目標を立てられる学生は少ない印象です。
「テスト範囲内の単語・熟語をチェックして単語帳を作る」「本文をノートに書き写して自分で訳す」
こういうトレーニング方法を知らない学生が多く、特に1年生に顕著です。
1年生というと、受験直後ですよね。それなのに勉強法がわからないなんて…と不思議に思いましたが、先生方に聞いてみるとその訳が推測できました。
最近の私学入試は学科試験がほとんどないのです。小論文と面接のみで合否を決めるとか。そのため、勉強経験が少ないことが理由と考えられます。
読めない
“happy”を“ハッピー”ではなく“エイチ・エー・ピー・ピー・ワイ”と読んでしまう学生もいます。
音読せずに中学・高校を過ごしたため、文章を黙読しても頭に入らない…授業がかなり苦痛だったと思います。
逐一読み方チェックを導入してから、授業への集中度が増しました。「読める」ことが「やる気」に直結するのです。
既存教材の問題点
歯科関係者養成校で採用されるテキストの多くは、“フレーズ集”です。
受付から始まり、問診、チェアへの誘導、など、場面ごとの歯科医院側の発話が英訳されて並んでいるのが一般的です。
しかし、診療の際に話しているのは歯科医院側だけでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
自分が歯科医院に行った際のことを思い返してみても、主訴を伝えたり、またカバンをどこに置いたらいいか尋ねるなど、発話しています。
けれど、多くのテキストにはこういった“患者が話しそうなこと”は載っていません。
テキストの中の患者の多くはYesかNoしか話していませんが、実際の患者は
Not really.
So so.
I’m not sure.
など、自由で自然な返答をしているはずです。
しかし、これらのフレーズを聞いたことがなければ応答するのは難しいと思います。
なぜなら、コミュニケーションはキャッチボールだからです。
相手のボールが受け取れなければ、返しようがないからです。
作るか、そんなら。
ありがたいことに、テキストの選定権は私にあります。
それでいっとき、テキスト探しに奔走していたことがありました。
医歯薬出版、クインテッセンス、学健書院…あらゆる出版社の蔵書を見て、めぼしいものをチェックしていました。この世にAmazonがなかったら、数十万の出費になっていたことでしょう(笑)
結果は…ほぼゼロ。
Youtubeの動画も著作権や文字起こしの問題で使えず…。
確かに、“患者の発話”とひと口に言っても内容や使用語いは星の数ほどあると思います。
「絶対にこれは言うだろう。」というフレーズとなると、厳選に困難を極めるでしょう。
しかし、これほどまでにないものか…と打ちのめされました。
逆に、
これまでなくてもなんとかなってきたから“患者の発話”がしっかり含まれているフレーズ集を作ろうという動きがなかったのか?
…という疑問も覚えるようになりました。
しかし、“語学習得”という観点から見て、
「聞いて、理解して、自分でも言ってみる」
この繰り返しこそが語学習得に直結すると考えると、“患者の発話”が載っていないテキストなんてあり得ないと思いました。
いろいろ考え悶々としているとき、学校の先生に背中を押されました。
「今使われている自作教材をまとめて、テキストになさったら?」
頭をよぎったのは「自分で作るの?」という驚きでしたが、「学生の評判もいい」という後押しで決心。
「作るか、そんなら。」
今後の展望
私はこの教材を通して、次のことを伝えたいと考えています。
- 音読なくして語学習得はあり得ないこと
- 医療機関でのコミュニケーションの目的は、患者の不安を減らすこと
- 簡単な語だけで中身のあるコミュニケーションは可能
- 会話練習を通じて実習の雰囲気もつかめる
まだ1ページもできていないテキストですが、このテキストで勉強することによって、学生が
「私、英語できるかも…!」
と少しでも自信を付けてくれたらと願いつつ、執筆しようと思います。
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